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ミホノブルボンの死

少し前の話だけれど、ミホノブルボンが死んだというニュースがあった。享年28歳、人間にすると100歳近くだから、大往生だ。

 

大好きな馬だった。平成はじめの頃の馬だから、もちろん現役時代は知らないのだけれど、とにかく異色の馬だから興味深くて、ブルボンを育てた戸山為夫調教師の本を読んだりしていた。そして、この馬のキャラクターに強く惹かれた。

 

当時つけられたキャッチコピーが「スパルタの風」。血統は良くなかったのだけれど、スパルタトレーニングによって強くなったから、こう呼ばれた。人工的に作られた馬なので、「サイボーグ」などとも言われていた。小さい頃から古馬と同じレベルの調教をこなしていたというのだから、それはもうブルボンに課された調教は過酷なもので、普通の馬の2倍3倍の量は当たり前だったらしい。本来はスプリンターなのに、3000mの菊花賞まで走っていたというのだから、今の競馬を考えるとすごいことだ。

 

スパルタ調教には賛否両論あって、ミホノブルボンの陰には過酷な調教に耐えられず潰れていってしまった馬が沢山いた。そして、ブルボン自身もボロボロだったのか、菊花賞を終えた後にはもう走ることが出来ず、四歳で引退に追い込まれてしまった。

 

それでも、「鍛えて名馬を作る」という思想は魅力的だった。血統が全てと言われるサラブレッドの世界だからこそ、かつてこんな馬がいたんだ、ということが希望に思えた。人工的に強くなった名馬だから、ブルボンは種牡馬になっても結果を出せず、血統を後世に残すことは出来なかった。だが、ブルボン一代においては、日本ダービー制覇という全ての競争馬の頂点に立つ偉業を成し遂げる事が出来た。

 

生き物は自身の血統から逃れることが出来ないし、生まれ持った才能の問題はどこへ行ってもつきまとう。「生まれ変わったらディープインパクトの子供になりたい」と言いながら自殺していった中学生の話は、あまりにも強烈で忘れられない。実際、ディープの子供は強くて、数字を見ると他の種牡馬との差は歴然としている。強いディープには強い牝馬が宛がわれるのだから、その差はますます広がってゆくばかり。血統は、残酷だ。

 

血にまつわる呪いを、個人の力、意志の力で乗り超えられるとブルボンは教えてくれた。乗り超えられないことの方が圧倒的に多いけれども、一縷の望みを示してくれた。現実問題、良血馬は確かに強いし、勝負ではそちらに賭けざるを得ない、というのはある。しかし、何億円もかけて良血馬を買って、一流の調教師・一流の騎手をつけて、レースではラビットをつけて勝ってと、そればかりが現実の姿だったら、あまりにも現実が空虚すぎる。現実を認識することと、理想を信じることとは別の話。涙を流しながら調教に耐え、「名馬は作れる」という、一つの理想を実現してくれたミホノブルボンのことは、これからも語り継いでいきたい。