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斉藤洋『ジークII ゴルドニア戦記』

 

ジーク〈2〉ゴルドニア戦記 (偕成社ワンダーランド)

ジーク〈2〉ゴルドニア戦記 (偕成社ワンダーランド)

 

 

竜を操る女王・カリョービカ率いるブラウニア軍の侵攻を受けたゴルドニア。かつての敵国を救うため、ジークはジルバニア軍を率いて援軍に駆けつけます。戦に破れて主従数騎になりながらも、流浪の果てにカリョービカを倒す、英雄ジークの活躍を描いた物語の一篇です。

 

『ジーク 月のしずく日のしずく』の続編です。イラストが追加され、ジークやバルの顔がよく分かるようになりました。国王の座を辞退して悠々自適な暮らしをしていたジークですが、またしてもバルから厄介ごとが持ち込まれ、冒険の世界へと駆り出されて行きました。今回の舞台はゴルドニアです。前作までは仇敵として互いに憎み合って来た国ですが、ジークの手柄で和解が成立した今、この国を助けるためジルバニアは援軍を派遣しようとします。その総大将に選ばれたのが、王族であるジークだったのでした。

 

先がどうなるのか全く読めず、意表を突かれることが多くて面白かったです。もう序盤の展開からして、早くも目まぐるしく進んでいきます。ジルバニアを出発した早々、いきなりジルバニア水軍とゴルドニア水軍との派手な戦いが始まり、ジルバニアは見事勝利します。しかし、その後の上陸戦で敗れて軍勢は全滅、ジークは単身、命からがらゴルドニア本土へ逃げ込みます。援軍の総大将としてジークが華々しく戦うのかと思いきや、あっという間に負けて落武者になってしまったので、この時点で、想像していた戦記とは全く違うのだなと思わされました。そこからは、スパイとして働く「銀のサソリ」の兵士たちと共にゴルドニアを放浪しますが、サランとは違い癖のあるメンバー達だし、いかんせん敵地に孤立しているため、どうしたらゴルドニアを救えるのか見当もつきません。敵の竜の力があまりにも強いので、孤立するジークに逆転の目はあるのか絶望的に見えましたが、最後は急転直下、ゴルドニア解放へと収束していきました。最初こそ随分偉くなったように見えましたが、ことが始まってみれば、相変わらずかつての狼猟師のように戦っているジークだったのでした。

 

しかし、意外な展開に面白さはあったものの、戦記と言うからには、大規模な戦の場面をもっと見たかったです。まともに戦ったのは最初の海戦ぐらいで、その後はジルバニア軍があっさり壊滅してしまったため、前作と同じような放浪の旅になってしまいました。せっかく将軍になったバルも、今回は早々と捕虜になってほとんど出番がないという体たらくで、サランやロッカなど他のキャラも同様に見せ場がありません。もともとジークたちは戦が初めてでしたし、その上竜が相手とあっては、あまりにも分が悪すぎました。

 

ゴルドニアを逃げ回っている時、関所を突破するために、銀のサソリのケンブランがわざと主君のジークを殴る場面がありますが、これは勧進帳の趣向そのままですね。言われてみれば、ジークは義経と幾分似ている所があるかも知れない。貴種なのだけれど山育ちで、フットワークが軽く、武勇に長けている。船戦にも強かったですし、国王の代わりに遠征に向かう王族というのもそれっぽいですね。眼帯をつけている所は伊達政宗のようだけれど、オッドアイになるとジークだけのユニークさ。日出処の天子もそうで、異様な特徴を持った貴公子というのには、限りないロマンを感じます。

 

それにしても、今回の敵は非常に厄介な相手でした。前作の敵は大魔アーギスという化物で、今回も一応竜という化物が出て来るのですが、竜は操られているだけなので、真の敵は生身の人間です。しかもそれは、竜を操る一方で、自身は嫉妬と憎しみの感情に操られている女王なのです。前作は、言って見れば人ではない何か悪い化物を退治すれば良かったのですが、今回は人間のもつ嫉妬の感情と戦わねばなりませんでした。女王の側近は、女王と同じように憎しみを抱えた女たちで固められていましたが、憎しみで結びついた者同士に絆が生まれることは無いので、失敗をしでかした側近のパーミュラを女王が冷酷に葬ってしまう場面もありました。死ぬこともなく権力の座を追われたカリョービカは、その後どうなってしまうのだろう。今回のジークの冒険は、前作と比べるとかなり生臭かったと思います。

 

銀のサソリの混血の兵士たちや、ゴルドニアでの出会った人々との交流を経て、ジークは外国語を学ぶことを決意します。知らず知らずのうちに、国王になるための資質や意識を身につけていっている感じがしました。実際に国王になるかどうかはともかくとしても、前作の終わり方とは、確かにジークの意識は変わっています。政治的な理由やら何やら背景には色々ありつつも、山奥から世の中に出てきて、多くの人と関わり、結果的にジークが一人の人間として成長していっているのが良かったです。