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それいけズッコケ三人組

読書

 

それいけズッコケ三人組 (ポプラ社文庫―ズッコケ文庫)

それいけズッコケ三人組 (ポプラ社文庫―ズッコケ文庫)

 

 

ご存じズッコケ三人組の第一作目。おなじみのハチベエ・ハカセ・モーちゃんの物語はここから始まりました。万引き少女と戦う話、城跡に発掘調査に行く話、クイズ番組に出場する話などなど、短編が五つ収録されています。ズッコケてるけど良いことをしてる、三人組の愉快な物語です。

 

夜眠る前、ちょっと読むつもりが、もう少しもう少しと続き……結局、一晩で一気に読んでしまいました。一話一話が短いのでテンポが良く、とても読みやすかったです。はじめに現れたのが、小学生とは思えないほど博識なのに、何故か学校の勉強が出来ないという、おかしなキャラクターのハカセ。そのハカセが、トイレに篭って勉強をするのを好むという珍妙な設定でもう、掴みはバッチリです。ハチベエが朝早く出かけて校庭の遊び場を確保する所など、そう言えば昔そんなこともしたっけと思い出すような「小学校あるある」も面白く、懐かしさも手伝ってすぐに物語に馴染んで行くことが出来ました。

 

一番好きだったのは、「怪談ヤナギ池」ですね。この話から、クラスの女子・陽子と由美子が登場します。二人は割としっかりしている子で、怪談話に盛り上がるハチベエなどはあまり相手にしませんし、会話の内容も常識的です。そんな二人が怪談を怖がらないのを悔しく思ったハチベエが、どうにか驚かせてやろうと企むところから物語が進んで行くのですが、この話は、言ってみれば三人組とクラスの他の子供との交流がはじめて描かれる話でもあります。陽子と由美子は常識的なので、ハチベエを見る目もヤレヤレと言った様子、ハチベエもそれまでの調子では会話が出来ません。そのため、対称的に、いままでいかに三人組同士の会話がズッコケていたかが浮き彫りになるのです。ズッコケは、やっぱり三人の掛け合いが面白いですね。話がかみ合わずに漫才のようになることもあるのですが、息だけは妙に合っています。この、不思議なズレやバランスがなんとも言えず面白いのです。

 

それにしても、三人組の周りに犯罪や事件の多いこと。ハカセの家には強盗が入るし、アカツキ書店には万引き少女が出るし、ヤナギ池には自殺者の水死体が浮かぶ。立石山城の塹壕の話も、過去の軍部の犯罪を暴き立てる後味の悪い話でした。犯罪の匂いがしないのは最後のゴールデンクイズの話くらいですが、これはむしろ、トランシーバーでインチキして賞金をくすねようとした三人組の方にそのケがあります。

 

ショッキングな出来事ほど非日常的で面白いものだから、敢えてこういう出来事ばかりが題材になるのかもしれません。しかし、那須正幹の『ジエンドオブザワールド』『ぼくらは海へ』を既に読んでいるので、ちょっと違う風にも見えるのです。

 

ハチベエ・ハカセ・モーちゃんの三人はそれぞれ個性的ですが、決して特殊な人間という訳ではなく、どこにでもいる普通の子供たちです。陽子や由美子、宅和先生らも身の回りにいそうな人たちであり、那須正幹の作品に出てくるのは、こういう普通の人・普通の子供ばかりです。そして、矛盾する言い方のようですが、強盗も万引き少女も自殺者もまた、恐らくはごく普通の人たちだったでしょう。何がその身に起きたかは分かりませんが、かつては彼らも、クラスのズッコケ三人組・町のズッコケ三人組だった頃もあったのだと思います。

 

彼らは悪事を犯してしまったけれど、主人公のズッコケ三人組は結果的に良いことをしている。しかし、ハチベエもハカセもモーちゃんも、この先に何があってどう変わってしまうかは分かりません。三人組と彼らを取り巻く悪人たちは、同じ世界に住む同じ人間たちであり、いつ良いことをするかも分からないし、いつ過ちを犯してしまうかわからない、平凡な人間たちの裏と表なのだと思います。面白いことだけでなく、その裏にあるものをしっかりと見据えて描こうとしている所が、作者らしいと思う所でした。