読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

那須正幹『あやうしズッコケ探検隊』

読書

 

 

ズッコケ3人組の無人島漂流記。四国にあるハチベエのおじさんの家を訪れた夏休み、ボートで漂流してしまった3人組が、謎の島から本土に生還するまでのサバイバル生活を描いた作品です。

 

ズッコケ3人組のことは色んな所で目にはしているものの、本をちゃんと読んだのは一冊あるか無いかぐらいだったので、意外と新鮮な感じがしました。この作品だと、特に事態をややこしくするのがハカセなのですが、びっくりするほど博識、しかし結構あてにならない所があるなど、キャラクターの長所も短所も絵に描いたようにクッキリしていて、分かりやすかったです。前川かずおの挿絵も好きです。

 

漂流記らしい島での生活の楽しさもありつつ、在り来たりとは違った展開もあり、むしろそちらの方が印象に残りました。魚釣りや素潜りが楽しそうだったり、ユリ根が美味そうだったりするのは、無人島生活の面白さ。しかし、物語の後半からライオンが現れたり、独り暮らしの老人が現れたりするのは意外でした。まさかライオンが?と途中まで半信半疑で、実は何かの見間違いだったりとか、本当は猫などの小動物だったりとか、結末は呆気ないものになるのではと思っていたのですが、ライオンは本当にいました。そして、島に暮らすおじいさんなどは、最初は3人組を脅かして揶揄っているように見えたものの、言っていることは全部本当で、実際にライオンに足を食い千切られてしまっていました。ライオンが島に現れた理由はとってつけたようなものだったりするのですが、ライオンによって生活を破壊されたおじいさんの述懐などは妙に切実で、空想的な無人島漂流記の楽しさとはちょっと違った色合いを帯びていたのが面白かったです。

 

島に暮らすおじいさんの話は、かなり重いと思います。おじいさんが35年も島で独りで暮らしていたこと、その島に急にライオンが現れたこと、ライオンによっておじいさんの生活が破壊され、片足まで失われてしまったこと、ライオンを捕獲したこと、島を離れて35年ぶりに本土の老人ホームで暮らすようになること。簡単に流してしまえないようなことが幾らもあって、このおじいさんに関わること自体が、一つの独立した物語になっていると言って良いと思います。

 

しかし、おじいさんの物語は、充分に語られている訳ではありません。空襲で家族を失ったことが島で暮らすようになったきっかけらしいですが、本当のところ何があったのかは分からず、本土に帰ってからおじいさんがどうなって行くのかも分かりません。老人ホームに入るのも、役場の人たちの意見で済し崩しに決まってしまった感があります。ただ、確かなのは、物語を通しておじいさんが変わっていったことです。35年で築き上げた生活が一瞬で理不尽に破壊され、言わば家族とも言える動物たちを食い殺され、この歳にして大きな変化を経験することになりました。一応納得はしたもののイマイチ吹っ切れず、島での生活に後ろ髪を引かれるような所のあるおじいさんは、今までの出来事にこれからどう決着をつけて行くのか。この物語は、3人組の漂流記としてだけではなく、3人組が客人としておじいさんの物語の世界に迷い込み、その世界の決定的瞬間に居合わせた、垣間見たという所からも、冒険の面白さを感じられる物語だと思いました。