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アーサー・ランサム『ツバメ号とアマゾン号』

 

ツバメ号とアマゾン号 (アーサー・ランサム全集 (1))

ツバメ号とアマゾン号 (アーサー・ランサム全集 (1))

 

 

とある湖畔のキャンプを舞台に、ヨットの帆船で湖の大海原を駆け巡る、小さな船乗りたちの夏休みを描いた物語です。

 

季節外れの秋の終わり、この物語を読みました。ちょうど『ムーミン谷の十一月』を読んだばかりだったのですが、奇遇にもヨットが出てくる話だったので、そう言えばと、覚悟を抱いて冬の湖にヨットで繰り出すヘムレンさんの姿を思い出したりしていました。こちらはうって変わり、ヨットに慣れた子供たちの陽気な船遊びの物語です。この物語の舞台は英国の湖水地方ですが、湖がある土地というのは実に優雅なものです。夏休みというと卑近なイメージがありますが、英国の湖水地方なんていったら、もはやムーミン谷と同じくファンタジーの世界なので、寂しい秋の夜長、空想世界に浸かるような気持ちで物語を読むことができました。

 

この物語はとても悠長で、時間の流れがゆったりとしています。例えば、子供たちが海賊船を見つけ、悪のフリント船長と戦おうということに決まっても、戦いはなかなか始まらず、途中で割り込みがあったり、すれ違いがあったり、他の出来事で上書きされてしまったりで、自然と時間は流れてゆきます。決して物語の先を急がず、何かあれば立ち止まるし、湖が凪いでいれば無理はしません。物語全体に、余裕があるのです。子供たちの遊びの数々は一つも捨象されることなく、丁寧に描かれていきます。こういう、せかせかしない優雅さがこの物語の魅力で、いつまでもこの時間が終わらないで欲しいと願いつつ、のんびりとたっぷりと読めるところが良かったです。

 

物語の始めから終わりまで、子供たちは船乗りになりきって、キャンプでの生活を過ごします。途中でナンシイとペギイに出会うとすぐに仲良くなり、呼吸ぴったりに2人ともども船乗りごっこに興じます。ごっこ遊びの楽しさというのは、灯した火を消さないように、興を冷まさないことが大事だと思っているのですが、実はそれは結構難しいことだと思っています。遊びをするにも無秩序ではいけなくて、楽しむためにはセンスやユーモアがなければいけません。そういう意味で、ウォーカー家の兄弟もアマゾン号のナンシイとペギイも、とてもしっかりしていると思うのですよね。働く喜び、知恵を働かせる喜び、遊びの喜びなど、多くのことを身体で学びとっていて、それをスマートに活かす術を身につけているようです。だから、これだけ楽しく遊べるのだと思います。この物語を読むと、名状しがたい遊びのセンスみたいなものを学びとれる気がします。