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小川英子『ピアニャン』

読書

 

ピアニャン (わくわくライブラリー)

ピアニャン (わくわくライブラリー)

 

 

ピアノが得意な猫・ピアニャンが、田舎を出て渋谷の野良猫となり、都会の人間相手に四苦八苦しながら成長していく物語です。

 

ピアニャンはもともと飼い猫でしたが、引っ越し先の社宅が猫禁止のために、やむなく野良猫となりました。生まれは新潟、引っ越し先は渋谷。おもちゃの赤いピアノを背負って歩く新潟なまりの白猫・ピアニャンは、かなり個性的です。

 

本の見返しには渋谷の地図が書いてあり、作中にも青山劇場やらBunkamuraやら具体的な建物の名前がどんどん出てきます。舞台は、まさしく現実の渋谷なのです。イラストが可愛らしいので一見牧歌的な物語のように見えるのですが、リアルな世界を意識してか、会話のない老夫婦やら、悪徳芸能プロダクションやら、夢見る若者(猫)やら、都会にありそうな問題が次々とピアニャンに襲い掛かります。野良猫らしい呑気な雰囲気で緩和されているものの、都会の生活は結構シビアに描かれています。

 

この物語の世界では、猫と人間が会話出来るようになっています。そして、人間が猫をアルバイトとして雇ったり、タレントとして起用したりもしています。『吾輩は猫である』よろしく、猫視点から人間社会を風刺するような所もあるのですが、この作品ではもっと積極的に、猫が人間社会に切り込んで行くのです。当たり前のように人間と関わっている所が面白いのですが、一方で、関わっているがゆえに、ともすれば猫たちが人間に騙されてしまいそうな危うさもあって、そのためにいっそう猫が愛おしくなってきます。

 

良いなあと思ったのが、ピアニャンのトレードマークである赤いおもちゃのピアノ。家を離れて都会に出てくる時に、ピアニャンが一緒に担いできた旅のお伴なので、モノなのだけれどだたのモノではありません。ピアノの音色は、エンターテイメントとして人間を楽しませたり、傷心のピアニャン自身を慰めたりしますし、雨風の時には身を挺してピアニャンの身体を守ってくれます。登場人物とは言えないものの、登場人物のひとりのように、愛着が湧いてきました。ピアニャンが車に轢かれそうになるシーンがあるのですが、その時、ピアニャン自身が助かったことは勿論のこと、ピアノが壊れずに済んだのにもホッとしました。物語の感想からは飛躍してしまうけれど、雨風に晒されながらピアニャンを助けるおもちゃのピアノを見ていて、丈夫で長持ちするモノを作るモノ作りって、素晴らしいなあと思いました。