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宝塚遠征記

一泊二日で宝塚へ行ってきました。初日に阪神競馬場でレースを観て、翌日に宝塚歌劇を観てきました。

 

9/25(日) 阪神競馬場にて神戸新聞杯を観戦。

早朝より新幹線に乗って新大阪へ。阪神競馬場宝塚市にあるので、新大阪から在来線で宝塚→仁川へと向かいます。

 

目当ては何と言っても、サトノダイヤモンドリオンディーズの回避は残念でしたが、サトノダイヤモンドだけでも見に来る甲斐はありました。エアスピネル・ナムラシングン・レッドエルディストらもおり、関東のセントライト記念と比べてこちらは層が厚いので、その他の馬も楽しみでした。

 

サトノダイヤモンドほどの馬になると、パドックでも空気が違いました。堂々たる500kgの体躯、エアスピネルやカフジプリンス等、どちらかと言えば小柄な馬が多い中、サトノダイヤモンドの馬体はとりわけ目を引きます。これが、最強世代と呼ばれる今年のクラシックで、皐月賞3着・ダービー2着の結果を叩き出した名馬。皆が、食い入るようにこの馬を観ています。饒舌に所感を語る馬体評論家たちも、目の前をサトノダイヤモンドが通る時だけは自然と無口になります。

 

心を奪われたのが、返し馬の時。パドックではちょっと落ち着かない所もあり、本馬場入場した後もその感じは続いていたのですが、いざ走り始めるとその雰囲気は一変しました。明るい鹿毛の馬体に黒いたてがみのサトノダイヤモンドですが、その黒いたてがみがフワッと靡いたかと思うと、瞬く間に首を落とし、重心を低く沈め、500kgの引き締まった馬体を怒らせながら、阪神の長い直線をスタート地点に向けて驀進してゆきました。

 

格好良い……!

 

その貫録たるや、王者のよう。走り始める瞬間がとても印象深く、恐るべき反応の速さ、戦闘モードに切り替わった時の凛々しい顔つき、フォームの安定感と綺麗さには、思わず息を呑まされました。馬の迫力に圧倒されたことは何度もありますが、こんなに惚れ惚れしたのは初めてかもしれません。サトノダイヤモンドを「天馬」と表現していた人がいたようないないような、うっすらと記憶がありますが、この日見たサトノダイヤモンドは正しく、天馬と見紛うばかりの美しい姿でした。

 

そして、レースです。結果だけ見たら、1番人気サトノダイヤモンドが勝つという、至極順当なレースでした。しかし、現地の緊張感はなかなかのものでした。サトダイが強いのはみんな分かっているのですよ。まず負けないだろうなと、誰もが思っていました。しかし、この日のサトノダイヤモンド単勝オッズは1.2倍。先週のディーマジェスティで1.4倍、シンハライトで1.6倍ですから、いかにサトノダイヤモンドに寄せられた信頼が大きかったかが分かります。これだけ人気が大きいということは、ほぼ全ての人間が、この馬と一蓮托生の運命にあることを意味します。大金をつぎ込んだ人もいたでしょう。4コーナーで、サトノダイヤモンドが馬群に包まれるようになった時の、競馬場全体に流れた不穏な空気がなんとも言えなかったですね。鞍上ルメールに超高性能人気馬。皆の頭に、メジャーエンブレム桜花賞の光景がフラッシュバックしたはず。直線で、まさかのミッキーロケットが食らいついてきた所でも、場内は騒然となっていました。早く終わってくれ、早く決めてくれ……! そんな心の声が、あちこちから聞こえてくるようで、サトダイ1着の確定後は、ヤレヤレというか、ホッとした様子。単勝1.2倍というのは恐ろしくハラハラする数字で、レースが始まるまで、そして終わるまでの時間、何万人と一緒に感じた緊張感は、忘れられません。

 

 

9/26(月) 宝塚歌劇を鑑賞。

 

宝塚駅前のワシントンホテルに宿泊。レースの興奮冷めやらぬまま、森絵都『つきのふね』を読み始めてさらに興奮し、ついつい夜更かししてしまった翌朝は、気づけば時間はもう9時30分に。宝塚のチケットは予約しておらず、10時から発売される当日券を当てにしていたので、旅先らしからぬ朝のドタバタ、かなり焦りました。

 

宝塚は、駅の周辺からしてもう別世界のようでした。建物の作りがいちいち瀟洒な感じがして、市内を流れる武庫川も景観に華をそえています。劇場までの道は「花のみち」。ここで、明るいショートカットのスラっとした麗人を見かけましたが、恐らく劇団の人だったのでしょう。これが宝塚か、すごい街だと思いつつ、大劇場に辿り着くと、時間はもう10時になろうとしていました。平日だからと高を括っていましたが、ついた頃にはもう長い行列が出来ており、なんとか席はとれましたが、ギリギリでした。

 

公演は13時からなので、それまで展示を観たり、劇場内をウロウロしたりして時間をつぶしていました。企画展示のコーナーでは、歴代のスターたちが紹介されていました。宝塚は100年続く歴史があるので、スターも沢山います。はじめの頃には百人一首の歌をもじったような芸名の人が多いので、この人は「天津風」か……と元の歌を逆算してみたり、顔立ちを見て、男役か娘役か当ててみたり、時代が下ると、時代劇で見かける名前もあるので、この人も宝塚だったのかと、驚いたりしながら、観ていました。

 

本日の公演は「桜華に舞え」と「ロマンス」。「桜華に舞え」は、薩摩の桐野利秋(元は人斬り半次郎こと中村半次郎)を主人公にした幕末明治の時代劇でした。宝塚を観るのは初めてで、予備知識も殆ど無かったのですが、劇が始まった瞬間、何だか感極まって涙がこぼれてきました。劇場に来るまでの「花のみち」も楽しかったし、劇場の中もまた壮大で、豪奢なシャンデリアとか、レッドカーペットの階段とか、そういうものに囲まれている内に、他の観客のワクワク感にも伝染されて、すっかり宝塚ワールドに取り込まれていたのでしょうね。そして、会津での、維新政府と幕府軍との戦いからもう、続けざまに落涙。何て、格好良いのだろうか。思っていたよりずっとスピード感があって、テンポよくセリフが重ねられていき、役者がキビキビと入れ替わり、舞台が目まぐるしく変わっていくさまは、まるで万華鏡を覗いているよう。当日席が殆ど残っていなかったものですから、わざわざここまで来て数千円をケチることもあるまい、ままよとばかりS席(\8,300)を取っていたのも良かったです。2階席の良い位置で、舞台を存分に堪能することが出来ました。間にはさまれる、歌も良かったですね。役者の歌唱力や声量がたっぷりと味わえる、あの絶唱。ふつうのセリフでは聴けない芸ですから、登場人物の感情の高ぶりも相まって、正しく聴きどころだと思いました。

 

登場人物の中で、一番格好良かったのは、やはり桐野利秋ですかね。寺田屋事件の時もそうですが、薩摩の武士というのは余りにも一徹過ぎ、例え友人同士でも志が違えば、どちらかが果てるまでお互い譲らないという、一撃必殺の自顕流そのもののような、生きるか死ぬかの悲しい宿命を持っています。その薩摩の武士らしさを、最も強くもったのが桐野でした。ラストの戦いでは、『スカーフェイス』のように、銃を打ちまくって独り政府軍相手に大立ち回りを演じる桐野利秋ですが、後ろから近づく会津の残党により、とうとう討たれてしまいます。最後まで義や優しさを重んじ、国を憂い故郷を想いながら果てていった所が魅力でした。それにしても、戦闘シーンは格好良かった。城山に立てこもる西郷の子弟たちに向かい、襲い掛かる政府軍の抜刀隊と、新式銃による容赦ない銃撃。切迫したBGMと赤く照らされた舞台の中、華麗に戦う武士たちの姿は壮絶であると同時に美しく、激動の幕末の最後を彩るにふさわしい、感極まるシーンでした。あとで入門書で知った所によると、宝塚は革命・禁忌・戦争を良く取り扱うそうで、そうすると、戦争はやはり見せ場なのでしょうね。あの壮絶な雰囲気に浸るためだけにでも、もう一度来たいと思えました。

 

劇のあと、30分の長めの休憩があって、「ロマンス」へ。こちらは、歌と踊りのレヴューでした。サクラ大戦で何となく名前は知っていましたが、実際に観るレヴューの華やかさと言ったら。公演の3時間はあっという間に過ぎてゆきました。帰る前に、雨宮まみ・はるな檸檬『タカラヅカ・ハンドブック』という入門書を宝塚駅内の書店で購入し、ヅカヲタの世界を垣間見ました。

 

当初は阪神競馬場へ行くついでのつもりで訪れた宝塚ですが、思っていたよりずっと素晴らしく、とても良い体験が出来ました。