読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

森絵都『DIVE!!』

読書

 

 

DIVE!!

DIVE!!

 

 

ダイビングでオリンピックを目指す高校生・中学生たちの物語です。スポーツの熱い話ですが、子供たちは品が良く寡黙で、泥臭くなく(プールなので)、汗臭くもなく(水の中にいるので)、清涼感があって爽やかな物語です。子供たちが真摯に競技に向き合う姿はとても格好良く、読み終わった後には、自分も何か始めてみようとか、人生を見つめなおそうとか、きっと思わせてくれる本です。ダイビングという競技にちょっと馴染みずらい所がありましたが、物語を通して、キャラクターの魅力だけでなく、競技の面白さ・魅力も、確かに感じることが出来ました。

 

ダイビングについて

 

ダイビングというと、どうもスカイダイビングやスキューバダイビングのが人気のようですが、ここで言うダイビングとは水泳の飛込みの事です。と言っても、私も始めは全く分からず物語を通して知ったのですが、5mや10mもあるような飛込み台からプールへ飛び込み、着水するまでの演技で点数を競う競技のことを、飛込みと言います。

 

始めは、一体どんな競技なのだろうかとイメージするのに戸惑いましたが、物語の力もあってか、この競技がとても面白いのです。演技には前宙返りとか後宙返りとか技が色々あり、選ぶ技によって選手の個性が出てきます。難易度の高い技を選ぶと得点が上がるので、試合に勝つために戦略を立てて技を選んだりします。この選手はこの技、この選手はこの技と、コーチがそれぞれの適性を見極め個性を引き出していくのですが、そこには選手のキャラクター・身体能力・メンタルなど様々な要素が絡んでいて、奥が深く面白かったです。物語の終盤では選手たちが猛特訓し、他の選手には真似の出来ないコレという奥義を身につけていくのですが、技には選手の生き様や飛込みに賭ける思いなど、色んなものが含まれた個性が凝縮されていて、それぞれの技を武器に試合に臨んでいく所は非常に熱く、燃える展開でした。シンクロ飛込という、共同してやる飛込もあるようですが、基本は個人技なので、個人で黙々と技術を高めていける所も好きでした。仲間はいますが、一人ひとり孤独なのです。

 

主人公たちについて

 

主役の3人のうち、要一はオリンピック選手の子で、飛沫は伝説のダイバーの子という、超良血の貴公子です。やっぱり、貴種というのは人を惹きつけますね。権威主義は嫌だと思いつつも、本能的に憧れますね。圧倒的かつ説得力のある強さ。性格的・能力的に最強キャラはトモキになるのですが、年長者でもあり最初から強かった要一・飛沫の存在感はやはり大きいですし、自分たちの血がもつ因縁やプレッシャーと格闘しながら前に進んで行く所も魅力でした。思えば、この物語に登場する選手は男ばかりですが、みんな育ちが良いせいか、むさ苦しさを全く感じなかったです。

 

3人の主役の中では、要一が一番良かったです。トモキと飛沫は、他の事でも何とかやっていけそうな感じはありますが、要一はダイビング以外には無く、正しくダイビングの申し子という所が好きです。父親からも心配されているように、気性難で、生き辛い所もあるだろうなと思いますが、ダインビングに全てを賭け、戦って、勝利して、誇り高く生きている所に憧れます。

 

特に良かったのが、せっかく内定の出たオリンピックの代表を辞退する所。辞退する理由というのが、どう考えても他人が聞いて納得できる理由ではないのですが、そういうのは誰にでもある事だと思うのです。万人が納得するような理というものはありますが、一方で、個人には個人史があり、その人が生きて来た人生を裏切らないため、どんなに非合理であろうが、その人にしか分からない、こうでなければならないというものが何かあるはずです。それを、世の中とどこまで折り合いをつけていくかが問題になるのですが、要一は、自分の信念を貫き通した所が偉いと思います。また、要一の意志を聴いた時、当然納得は出来ないものの、要一という人物を観て、別のチャンスを与えた前原会長の度量も粋でした。

 

長い物語を読み終えて

 

要一のようにダイビング一筋の選手もいる一方、負けるために戦うという飛沫や、駄馬には駄馬の戦いがあると、ビリにはならない事を目標にするレイジなど、胸中にはそれぞれの思いを秘めて戦っています。ダイビングは、それらを全て受け入れています。陵のように脱落してしまった子もいますが、それを非とすることもありません。最後のオリンピック代表選出の試合では、途中影が薄くなってしまっていた幸也も含めて、登場人物ひとりひとりに焦点を当てて語らせてくれるのが良かったです。

 

ダイビングという競技自体良く知らないし、スポーツで熱くなったことも無いので、楽しめるかどうか不安でしたが、良い意味で裏切られました。競技自体は一瞬ですが、その一瞬の美しい演技をするために、これだけの思いが積み重ねられているとは。飛込みの大会などあったら、実際に観てみたいとも思いましたし、自分の人生に対しても、真摯に見つめなおすきっかけを与えてくれた本でした。