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マーガレット・マーヒー『魔法使いのチョコレート・ケーキ』

魔法使いのチョコレート・ケーキ―マーガレット・マーヒーお話集 (福音館文庫 物語)

魔法使いのチョコレート・ケーキ―マーガレット・マーヒーお話集 (福音館文庫 物語)

 

 

8つの物語と2つの詩が収録された、児童向けの短編集です。魔法使いや幽霊、鳥や妖精たちが現れる不思議な物語が集められています。

 

子どもたちを優しく取り巻く自然や動物、魔法使いたちの温かさが、じんわりと心に響きました。不思議な出来事の数々に、胸を躍らせたり、想像力を遊ばせたり、少し怖かったりもしますが、ほんの束の間、世事を忘れさせてくれるような本でした。特に気に入ったのは、「遊園地」「魔法使いのチョコレート・ケーキ」「メリー・ゴウ・ラウンド」です。

 

しかし、物語を読んだあと、まんまとチョコレート・ケーキを食べたくなりますね……。あとで、買って来よう。

 

好きな場面

心に残った場面を、紹介してみたいと思います。

 

リンゴの木と魔法使いは、日なたぼっこをしながら、いっしょにお茶をのみました。

「もう一ぱい、つぎますかな?」と、魔法使いは、ていねいにいいました。

 ひとりぼっちの魔法使いとリンゴの木とのお茶会の場面です。いつもは、しかつめらしくしている魔法使いですが、この日はご機嫌です。良い場面ですね。挿絵には、野原に植えられた一本のリンゴの木と、木に寄り添って座る老いた魔法使い、そしてじょうろが描かれています。

 

魔法使いは、おもしろはんぶんに、肥料の粉で、すばらしいケーキをつくりました。材料は、腐葉土と混合肥料、それに窒素がひとつまみでした。魔法使いは、そのケーキに白い石灰の粉をまぶしました。

小さい頃に読んでいたら、きっと真似していただろうなあ。肥料や石灰をケーキに見立てる遊び、楽しそう。リンゴの木にとっては、ごちそうですね。

 

「どうもありがとう」と、マイケルは、おぎょうぎよくいいました。「ぼく、お礼になにをしたら、いい?」

「水夫の歌を口笛で吹いてくれないか」ポテトチップは答えました。「このびんのなかに吹いておくれ。そしたら、いつか、また出して聞けるからな」

 歌も生きているんですね。びんの中から、歌がこぼれたり溢れたりするという……。面白いなあと思います。

 

「あたしのほうが、うまいのよ。だって、あたしは、ほんとの子どもだけど、あんたたちは――あんたたちは鳥じゃないの」

 とつぜん、あたりは、しいんとなりました。笑い声は消え、歌をうたっていた子は、歌をやめました。ブランコは、だんだひくくおりてきて、回転台は、速度をおとしました。シーソーは、ちょっとの間、空中で静止しました。夜の子どもたちの青白い顔が、いっせいにじぶんのほうにむけられたことに、リネットは気がつきました。

 この、取り返しのつかない感じの怖さと言ったら……。リネットの一言で、夜の子ども達は二度と現れなくなってしまいました。

 

「あの連中、陽気とはいえねえな」と、バーニーは文句をいいました。「あんなに大ぜいいるのに、だれひとり、笑うでもなけりゃ、にっこりするでもねえ」

「おれも、人間の子どもが、こいしくなったよ。それに、サーカスといっしょに、にぎやかにやりてえな」と、トッドもいいました。「だが、ここにいれば、食うのにこまらねえしなあ」

 路頭に迷ったトッドとバーニーを救ってくれたのは、森の住人たちでした。しかし、トッドとバーニーは、人間たちのいる賑やかな世界を懐かしみます。悲しいかな、森と人間との蜜月は、長続きしない運命なのですね……。

 

ひとりは軍人で、背が高く、魚のうろこのような光るよろいを着ていました。その人の黒い髪の毛は、赤いリボンでしばってあり、手には、細く、長いやりをもち、腰には金色の剣をさげていました。二ばんめは、女のひとでしたが、男のように背が高く、力づよく、頭には羽根かざりのあるかぶとをかぶり、よろいの上には、トラの皮のコートをつけていました。また、炎のようにかがやいているそのひとの髪は、コートの上から腰のあたりまでたれ、銀のくさりとバラの花ぐさりが、髪の毛にあみこまれていました。

ミドリノハリを匿うテディのもとを訪れた、女王の使いのもの達です。軍人の男に、鎧をまとった背の高い女、そしてもう一人、魔法使いの老人がいます。挿絵があるのですが、これがまた仰々しく、明らかに、軍人たちからタダモノではない雰囲気がするのですよね。特に背の高い女は、ギリシャ神話のパラス・アテネのような風貌で、とても凛々しく格好良いです。それに、ランツクネヒトを思わせる軍人の男と、小人のような老人という、奇妙な組み合わせ。どうやら、老人がリーダー格のようです。女王の命を受けた追捕使ではありますが、ただの下っ端の役人とは思えず、3人がそれぞれ特異なキャラクターをもっていそうな雰囲気があります。この3人の関係は? なぜこの3人が選ばれたのか? 非常に気になる所でした。

 

怪しい大人たち

物語に登場する大人が、怪しい大人ばかりなので抜粋してみました。魔法使いや動物たちとは対称的で、怖いですね。

 

「ほんとうに夢とお願いがでてくるの?」ジョーンは聞きました。

「それが知りたきゃ、銀貨をひとつ、出さなくちゃいけないんだよ」と、おばあさんはいいました。

 銀貨と引き換えに、子供に「夢と願い」を売る老婆。老婆は、さびしい所にだけ現れます。

 

「また、ただ乗りさせたんだな?」と、団長は聞きます。

「ほんのちょっとばかり!」と、バーニーはつぶやきます。「子どもたちが、とても喜んだもんでね」

 子どもの笑顔に絆されて、タダでメリーゴーランドに載せてしまうトッドとバーニー。2人はサーカス団からクビになりました。

 

その小さい子もまた、孤児でした。おとうさんも、おかあさんもなく、いるのは、おばさんだけでした。けれども、このおばさんは、わすれっぽいひとでした。

 ある日、森へピクニックにいたとき、おばさんは、じぶんが、めんどうをみなくてはならない、小さい女の子をつれていたことをわすれてしまいました。

 小さい女の子を森へ置き去りにして、おばさんは南アメリカへ消えてゆきました。本当に、わすれっぽい人だったのでしょうか。

 

パースリおばさんは、じぶんの仕事が、あまりすきではありませんでした。おばさんが、ほんとうにしたかったのは、トマトや木イチゴをつくることでした。でも、じっさいには、三十人のそうぞうしい、きたならしい子どものせわをしなければならなかったのです。

パースリおばさんは、汚らしいこどもが嫌いですが、仕方なく孤児院で働いています。しかし町長は、良く管理されたこの孤児院が自慢の種です。こどもたちは普段、どんな暮らしをしているのでしょうか。

 

「あなた、だれからかくれているんですか?」テディは聞きました。

「たいへんゆたかで、力のある女王からだ」ミドリノハリは答えました。「ほんとうのところ、あの女王には、金がありすぎる。まえに、わしは女王のため、ひとつ仕事をしたことがある。そのため、女王は、わしを永久にじぶんのそばにおこうとしている。

裁縫師のミドリノハリを囲い込もうとする女王。この後、女王の部下がミドリノハリを探すため、テディの家を滅茶苦茶に荒らしていってしまいました。