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斎藤惇夫『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』

 

冒険者たち ガンバと15ひきの仲間 (岩波少年文庫044)

冒険者たち ガンバと15ひきの仲間 (岩波少年文庫044)

 

 

港町に住むガンバというネズミが海を渡り、イタチに襲われて絶体絶命の危機にいる島のネズミ達を救いに行く物語です。ガンバは街で平穏無事な暮らしをしていましたが、島ネズミの忠太から助けを求められ、仲間と共に海を渡ります。ノロイ率いるイタチの攻撃で島のネズミはほぼ壊滅しており、忠太の姉・潮路らが僅かに難を逃れて潜伏しているばかりで、残りのネズミ達も全滅は時間の問題でした。この絶望的な状況の中、ガンバと仲間達は同胞を救うためにイタチと戦います。

 

私は『ロビンソンクルーソー』や『宝島』など海洋冒険物が大好きなので、この物語もとても面白く読めました。まず、ネズミとイタチの戦いという設定が、良かったですね。イタチというと、人間から見たら小さな動物ですが、ネズミ視点から見たイタチの恐ろしさは、それはもう凄まじいものです。登場人物は動物なのだけれど、お互いに捕食者と獲物の関係なので、牧歌的な雰囲気は全くありません。まともに戦ってはネズミたちに勝ち目はないので、ネズミはとにかく、イタチに見つからないように見つからないようにと心を砕きます。島の地図を広げて島ネズミの救出ルートを考えたりする所などは、まるで軍事作戦のようで格好良く、ネズミたちの命がけの空気感がひしひしと伝わってきました。イタチはなかなか登場しません。いつイタチに見つかってしまうか、目に見えない相手への恐怖と緊張が長く続きます。ゲームに例えるならステルスアクション、敵に見つからないように隠密に任務を遂行していく『メタルギア』シリーズのドキドキに近いものが感じられて面白かったです。

 

『ロビンソンクルーソー』などは独力で道を開いていく所が面白い話ですが、この物語はチームワークを尊ぶ話です。始めは、ガンバと仲間達もバラバラでした。死線を潜って助けを求めに来た忠太に対して、事情を知らない内は港のネズミ達も快く助太刀を買って出ますが、相手がノロイと聞くや皆尻込みしてしまいます。ノロイのことは船乗りネズミ達の間に夙に広まっており、名前を聞いただけで身を震わせるくらい恐れられていたのです。ノロイを恐れず忠太に加勢しようとしたのは、ガンバだけでした。冒険を知らない町ネズミのガンバは、ノロイのことも知らなかったので、却って歴戦の船乗りよりも勇気を奮うことが出来たのです。しかし、忠太とガンバ、たった2人でイタチの群れと戦おうというのはあまりにも無謀です。港から島へと向かう船路は死出の旅路というに相応しく、ここまで読んだ時には、主従二人の孤独な冒険の話のように思えました。しかし、港のネズミの中には忠太を見捨てることを潔しとしないネズミもおり、島へ向かう船にコッソリ同乗していた者がいました。ノロイを知らないからこそ発揮出来たとは言え、ガンバの蛮勇が、知らず知らず周囲のネズミ達を突き動かしていたのです。そこからはガンバと15匹の仲間たちが出来上がり、チームワークをもってイタチと戦う物語となります。冒険の最中にはネズミ達の間で不和や対立もありました。しかし、イタチとの直接対決が始まり、戦いと死の恐怖が間近に迫った時にネズミ達は一致団結するのです。

 

イタチの領袖・ノロイは一筋縄では行かない悪役でした。様々な困難を乗り越えて島ネズミ達との合流に成功したガンバ達は、洞穴に篭り、地の利を活かして、襲い来るイタチを迎え撃つことになります。しかし、洞穴に籠城するネズミ達に対して、ノロイは正面から攻撃をかけることはしませんでした。代わりに、ご馳走を見せびらかしたり、楽しい踊りで誘惑したりと、ネズミ達の結束を崩すための策を仕掛けて来たのです。ノロイの思惑通り、そうした策を仕掛けられる度に籠城のストレスで鬱屈するネズミ達の結束は崩れかかります。こういう風に、物理的な攻撃ではなく、心を攻略しにかかってくる所がノロイの恐ろしさで、物語の後のほうではネズミとイタチとの直接的な激しい戦闘も待ち構えていますが、悪役ノロイの個性はこのような心理戦の場面にこそ発揮されていると言えるでしょう。月夜の晩、ネズミ達を誘惑するために捧げられた美食と踊りはさながらノロイ劇場と言った趣で、韻文で唄われる死の饗宴は非常に蠱惑的でありました。しかし、ガンバ達は誘惑に打ち克ち、力を合わせて戦いに勝利するのです。

 

イタチによる島の制服・残ったネズミの抵抗・飢えと内憂の籠城戦・決死の逃避行など、筋書きからもキャラクターから感じる悲愴感からも、冒険というよりは戦争の歴史を強く感じさせる物語でした。一蓮托生と心を決めたネズミ達にとって、最大の敵は仲間の結束を崩そうとする敵です。個々の力ではどうにもならない状況でも力を合わせれば解決出来るという、チームワークの大切さが学べる物語でした。